資産運用に興味のある人なら一度は聞いたことのある確定拠出年金。会社から加入を勧められた方や、銀行からiDeCoを勧められた方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、確定拠出年金がどういう制度なのか、どういうメリット・デメリットがあるのかについて簡単に解説していきます。
目次
1. 確定拠出年金とは
2. 加入対象者と拠出限度額
3. 運用方法
4. 給付条件
4.1 老齢給付金
4.2 障害給付金
4.3 死亡一時金
4.4 脱退一時金
5. 税法上の取り扱い
6. 企業型DCのポータビリティ
7. 確定拠出年金のメリット
8. 確定拠出年金のデメリット
9. まとめ
1. 確定拠出年金とは
確定拠出年金は、英語でDC(Defined Contribution=確定拠出)といい、その名の通りあらかじめ定められた掛金を毎月拠出することで、将来の年金資産を作っていくための私的年金制度です。
毎月の拠出額は決まっていますが、将来の年金受取額は掛金の運用実績によって変動することが大きな特徴となっており、加入者自身が掛金を運用し、運用リスクを負う(年金の受取額は自己責任)年金制度となっています。
「拠出時」「運用中」「受給時」それぞれで税制面の優遇があり、老齢給付金や障害給付金、死亡一時金といった給付を受けられ、「日本版401k*」とも呼ばれています。
*401kは、アメリカにおける確定拠出型の個人年金制度の一つ
2. 加入対象者と拠出限度額
確定拠出年金には、企業が企業年金として実施する企業型年金(企業型DC)と、個人が任意に加入する個人型年金(iDeCo)の2つのタイプがあります。
iDeCoでは、加入者個人が掛金を拠出します。企業型DCでは、企業が掛金を拠出しますが、一定の範囲内で加入者個人による上乗せ拠出(選択制やマッチング拠出)もできます。
加入対象者および加入者一人あたりの拠出限度額は、下記の表の通りです。
加入対象者 | 拠出限度額(月額) | 備考 | ||
企業型DC | ① | 企業型DCのみ加入 | 55,000円 | ・企業型DCのみ導入している企業の従業員 ・マッチング拠出とiDeCoの加入は選択制 ・事業主掛け金の上限を35,000円とすることでiDeCo加入可能 *2022年10月1日より上限引き下げ不要 |
② | 他の企業年金制度に加入 | 27,500円 | ・確定給付企業年金と企業型DCを導入している企業の従業員など ・マッチング拠出とiDeCoへの加入は選択制 ・事業主掛金の上限を15,500円とすることでiDeCo加入可能 *2022年10月1日より上限引下げ不要 *2024年12月1日より(55,000円ー他制度掛金相当額)に変更予定 |
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iDeCo | ① | 国民年金第一号被保険者 | 68,000円 | ・拠出限度額は国民年金基金の掛金と合計 |
② | 企業年金制度のいずれにも加入していない | 23,000円 | ||
③ | 国民年金第3号被保険者 | 23,000円 | ||
④ | 企業型DC①に該当 | 20,000円 | ※2022年10月1日より事業主の拠出額が35,000円を超えると拠出可能額が逓減 | |
⑤ | 企業型DC②に該当 | 12,000円 | ・公務員、私学共済加入者、他の企業年金のみに加入している者を含む *2022年10月1日より事業主の拠出額が15,500円を超えると拠出可能額が逓減 *2024年12月1日より企業型DCの事業主掛金額と他制度掛金相当額が35,000円を超えると拠出限度額が逓減 *2024年12月1日より20,000円に変更予定 |
またiDeCoに関しては、掛金を毎月拠出する方法に加えて、2018年1月以降は12月から翌年11月までの1年間(拠出単位期間)ごとに、複数月分をまとめて拠出することや、1年間分をまとめて拠出することが可能となりました。これにより、掛金拠出額の変更は、拠出単位期間につき1回限り行うことに変更されました。
なお、加入者が行う運用資産の配分変更やスイッチング(買換え)については、少なくとも3ヶ月に1回行うことができますが、運営管理機関に手数料を払い込む必要はありません。また、iDeCoにおける拠出最低額は「5,000円×拠出区分の月数」の金額となっています。
3. 運用方法
確定給付企業年金加入者は、年金資産の運用について、自ら運営管理機関に対して運用指図を行います。運営管理機関とは、確定拠出年金制度の運営管理(記録関連業務・運用管理業務)を行う専門機関で、主に金融機関が対象となっています。
加入者は、運営管理機関が提示する、リスク・リターン特性の異なる3つ以上の運用商品の中から、自らの運用商品を選択します。選択する運用商品は、一つのみでもかまいません。
なお、事業主や国民年金基金連合会などは、加入者が制度へ加入する際および加入後において、継続的に個々の加入者の知識水準やニーズなども踏まえつつ、加入者が十分理解できるよう、必要かつ適切な投資教育を行わなければなりません。(継続投資教育の努力義務化)
4. 給付条件
確定拠出年金における給付の種類には、老齢給付金のほかに、高度障害または死亡した場合に支給される障害給付金、死亡一時金があります。また、一定の要件を満たした人が中途脱退したときに支給される脱退一時金もあります。
老齢給付金
老齢給付金は、60歳以降に受給を開始しますが、遅くとも75歳までに受給を開始しなければなりません。受給可能となる年齢は、最初の掛金拠出からの経過期間によって異なります。なお、老齢給付金の支払いは5年以上20年以下の有期または終身で、企業型DCは資産管理機関、iDeCoは国民年金基金連合会の事務委託先である金融機関が行います。
最初の掛金拠出からの経過期間 | 受給可能となる年齢 |
10年以上 | 60歳 |
8年以上 | 61歳 |
6年以上 | 62歳 |
4年以上 | 63歳 |
2年以上 | 64歳 |
1月以上 | 65歳 |
障害給付金
加入者または加入者であった人が、70歳到達以前に政令に定める程度の障害の状態に該当するに至ったときに請求することができます。
死亡一時金
加入者が死亡した場合に請求できる給付金です。
脱退一時金
企業型年金の加入者資格を喪失した月の翌月から6ヶ月以内で、個人別管理資産の額が15,000円以下などの要件を満たした人は、脱退一時金を請求することができます。
iDeCoの加入者は、国民年金保険料を免除されていることなどの要件を満たすと、脱退一時金を請求することができます。
5. 税法上の取り扱い
税法上の取り扱いは、下表の通りとなります。
掛金 | 事業主拠出分 | 全額損金算入 |
加入者拠出分 | 小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象 *加入者の掛金を同一生親族が納付した場合、当該親族は所得控除の適用を受けられない |
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給付時 (老齢給付金) |
一時金受取り | 退職所得(退職所得控除が適用) *加入者期間を勤続期間とする |
年金受取り | 雑所得 (公的年金等控除が適用) |
6. 企業型DCのポータビリティ
企業型DCは、転職先にも企業型DCが導入されている場合、そのまま年金資産を移管することが可能となっており、転職先に企業型DCがない、自営業者になるなどの場合、iDeCoに年金資産を移管することが可能となっています。
なお、転職後6ヶ月以内に年金資産の移管が行われなかった場合、運用していた資産は現金化され、国民年金基金連合会に自動移換されてしまいます。自動移換されてしまうと、「運用ができない」「手数料がかかる」「確定拠出年金の加入者期間にカウントされない」といったデメリットが生じますので注意が必要です。
7. 確定拠出年金のメリット
・掛金を自分で拠出する場合、その掛金は所得控除の対象となる。
・積立期間中は、運用によってプラスになった利益を非課税のまま運用できる
・年金を受取る際には、退職所得控除または公的年金等控除を受けられる。
・自分名義の資産として保護・管理される。
・資産状況、運用状況を簡単に把握できる。
・転職時に、それまでの年金資産を企業型DCまたはiDeCoに移管することができる。
8. 確定拠出年金のデメリット
・原則として60歳になるまで資金を引き出すことができず、中途解約の要件が非常に厳しい。
・個人型確定拠出年金は口座の運用に手数料がかかる。
・自分で運用を行うため、運用方法によっては積み立てた資産が元本割れしてしまう可能性がある。
・転職時に手続きしなければ、現金化された上で国民年金基金連合会に自動移換される。
9. まとめ
これからの日本においては、理想の老後に向けて十分な資金を確保するために、自助努力で資産運用を行っていくことが必要不可欠となってくるでしょう。
確定拠出年金はそういった状況を受けて開始された年金制度であり、税制が優遇されていることによって投資初心者にも始めやすい制度となっています。
ただ、知識が無いまま確定拠出年金に手を出してしまうと大きく損をしてしまう可能性も十分にあります。しっかりと制度内容を理解し、メリット・デメリットを把握した上でご自身の資産運用に役立てていってください。